2.1 白金族金属イオン,金イオンのバイオ還元・析出

貴金属のバイオミネラリゼーションには、 鉄(III)イオン還元細菌S. algae(海洋性細菌)、S. oneidensis(淡水性細菌)を用いる。これら還元細菌は、ギ酸塩など有機酸塩を酸化し、発生する電子を用いて鉄(III)イオンを還元する(図1)。鉄(III)イオンの還元電位が貴金属イオンの還元電位と同レベルであることに着目し、貴金属イオンの還元・析出に鉄(III)還元細菌を適用する。

S. oneidensisによるパラジウム(II)イオンの還元挙動を図 2に示す。
還元細菌と電子供与体(乳酸塩、ギ酸塩)の共存下、パラジウムの還元・析出が進行する。とくにギ酸塩を用いた場合、初濃度500 ppmのパラジウム(II)イオンのバイオ還元が10分以内に完了する。 還元細菌に捕集されたパラジウムの価数は、X線吸収端構造(XANES)分析によって、電子供与体(ギ酸塩)の存在下で金属(0価)にまで還元されることが明らかにされている(図3)。金属塩水溶液が中性pH 7の場合、パラジウム粒子の生成場は細胞の外膜と内膜の間のナノ空間(ペリプラズム空間)である(図4)。貴金属イオンの還元・析出に寄与する生体物質等は、粒子生成場から判断して、ペリプラズム空間に存在すると考えられる。パラジウム回収量は、1.74×10-13 g/cellとなり、液相細胞濃度が1.0×1016 cells/m3であれば 1.74 kg/m3 になる。乾燥細胞のパラジウム含有率は60 wt%、出発溶液に対するパラジウム濃縮率は570倍に達する。5)

S. algaeを利用しても、初濃度50~500 ppm の白金属イオン(パラジウム(II)、白金(IV)、ロジウム(III))や金(III)イオンが60分程度で還元され、金属ナノ粒子が析出する(図5)