2.2 リサイクル技術としての特徴と課題

2.2.1 新技術の特色

従来の湿式回収技術と新技術の概略図を図6に示す。従来プロセスにおける物質フローと比較すると、還元細菌を利用するリサイクル方法は、浸出液のpH調整と電子供与体の添加が必要になるが、希薄溶液からの金属の分離・濃縮工程からナノ粒子調製工程に至る多段階工程をワンステップで達成できる統合プロセスとなる。これに加えて、一般的に微生物処理は非常に遅いという短所があるが、本バイオ技術は、貴金属イオンの還元・析出を室温、30分程度の回分操作で完了できる特長をもつ。


2.2.2 貴金属に対する選択性

 都市鉱山、例えばプリント基板には、貴金属に比べて300倍程度の高濃度でベースメタル(銅、ニッケル、亜鉛)が共存しているため、貴金属に対する選択性の有無が分離操作上の鍵となる。プリント基板やICチップの王水浸出液を対象にしても、浸出液のpH調整(pH 1~2)を行えば、還元細菌S. algaeは金(III)イオンを選択的に、迅速に還元する機能を発揮する(図7)9)。

 使用済み自動車触媒の浸出液では、白金/パラジウム/ロジウム混合溶液を対象にバイオ還元・回収することになる。白金族金属混合溶液に還元細菌を適用すると、各金属の還元・回収は60分程度で完了するが、各金属イオンの還元・析出速度に顕著な違いが認められた。この還元速度差を活かして、バイオ還元・析出法によって白金族金属を相互分離できる可能性が拓けてきた。


2.2.3 連続操作によるバイオ還元・回収

 貴金属を含む溶液を大量処理するために、槽型反応器を連続方式(原料溶液・還元細菌の供給、生成粒子・細菌懸濁液の排出)で操作し、バイオ還元・回収試験を行った。供給液パラジウム(II)濃度を500 ppm、平均滞留時間を20秒に大幅に減少させた場合でも、定常状態でのパラジウム回収率が95%以上に維持できた。この操作条件下でパラジウム回収速度が95 kg/(h?m3) 6) となり、高速・高効率回収が達成可能である。


2.2.4バイオカプセルによる貴金属の回収

 シームレスカプセル製造技術(森下仁丹(株))を適用し、還元細菌を内包するカプセルを研究開発している。このバイオカプセルは、物理的に強固で、幅広いpH領域でも長期間安定であり、レアメタルが液相からカプセル内部に効率的に透過できるように皮膜構造(網目サイズ)を調整できる。本バイオカプセルを用いて、希薄溶液からパラジウム(II)の還元・回収に成功した(図8)12)。