利用者・対象
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ハイブリッド車に使われる主なレアメタル
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市場規模 (レアメタル)
- 液晶ディスプレイ、自動車触媒等の産業で需要拡大
- 東アジアの経済発展 と 資源枯渇に伴う価格上昇
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大阪府立大学
工学研究科・化学工学分野 理学研究科 |
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ハイブリッド車に使われる主なレアメタル
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レアメタル消費大国である我が国において、リサイクル拡大のための取組みとして、国内で発生する使用済み製品等を循環資源と捉え、レアメタルを分離濃縮・回収する“都市鉱山”構想に期待が高まっている。経済産業省が昨年4月に公表した“次世代自動車戦略2010”(1)においても、レアメタルの安定供給確保に向けて、経済的に成り立つリサイクルシステムの確立やリサイクル技術開発等に取り組むことの必要性が謳われている。
有用金属のリサイクル技術は、固体物を対象に銅転炉などで溶煉処理する乾式法と、各種溶液を対象に化学的処理する湿式法に大別できる。湿式プロセスでは、レアメタル含有固形物から有用金属を液相に溶出させる浸出(固液抽出)と、浸出液からの有用金属の分離濃縮・回収が主要な操作となる。各種溶液からの有用金属の湿式回収技術が数多く開発されてきたが、都市鉱山の浸出液を対象にした場合、使用済み製品に含まれるレアメタルが微量であることから、“希薄溶液からレアメタルを効率よく、経済的に回収できるリサイクル技術”の開発が課題となっている。ここでは、都市鉱山からのレアメタル資源循環システムの構築をめざし、当研究室が研究を進めているバイオ利用回収方法(2-14) について紹介する。
生物による固体物の生成がバイオミネラリゼーションであり、その身近な例が貝殻、サンゴである。
We found that the metal ion-reducing microorganism, Shewanella algae (Figure 1), exhibit the ability to reduce and deposit the precious metal ions of gold (III), platinum (IV), palladium (II), and rhodium (III) into metal nanoparticles, a process known as biomineralization (Figure 2). We have collected fundamental data demonstrating that the ability of these microorganisms can be applied to the recycling of precious metals (Ogi e al., 2010a, 2010b, 2011a, 2011b; Konishi et al., 2007a, 2007b, 2007c; Tamaoki et al., 2010). In addition, when targeting the leachates from printed circuit boards, the metal ion-reducing microorganism can successfully allow selective reduction and deposition of gold ions under acidic conditions (pH 1-2) in the presence of heavy metal ions such as copper, proposing a new bio-recovery system of gold (Figure 3). Compared to existing recycling methods, the new bio-recycling method has the following features:
Introducing biotechnology into the process of recovering precious metals from urban mining is directed at building a foundation for the development of eco-friendly material recycling technologies: 1) we will construct an integrated system comprising the separation and concentration processes of precious metal from the leachates of the post-consumer products and the conversion process into highly functional precious metal materials in the form of nanoparticles; 2) in order to put the system into practical use, we will carried out a proof test with a small scale demonstration system (Mini plant).
Figure 1 Precious metal ion-reducing bacterium
Figure 2 TEM images of S. algae bacteria and palladium nanoparticles
Figure 3 Recycling flow of precious metals by the new and conventional technologies
貴金属のバイオミネラリゼーションには、 鉄(III)イオン還元細菌S. algae(海洋性細菌)、S. oneidensis(淡水性細菌)を用いる。これら還元細菌は、ギ酸塩など有機酸塩を酸化し、発生する電子を用いて鉄(III)イオンを還元する(図1)。鉄(III)イオンの還元電位が貴金属イオンの還元電位と同レベルであることに着目し、貴金属イオンの還元・析出に鉄(III)還元細菌を適用する。
S. oneidensisによるパラジウム(II)イオンの還元挙動を図 2に示す。
還元細菌と電子供与体(乳酸塩、ギ酸塩)の共存下、パラジウムの還元・析出が進行する。とくにギ酸塩を用いた場合、初濃度500 ppmのパラジウム(II)イオンのバイオ還元が10分以内に完了する。 還元細菌に捕集されたパラジウムの価数は、X線吸収端構造(XANES)分析によって、電子供与体(ギ酸塩)の存在下で金属(0価)にまで還元されることが明らかにされている(図3)。金属塩水溶液が中性pH 7の場合、パラジウム粒子の生成場は細胞の外膜と内膜の間のナノ空間(ペリプラズム空間)である(図4)。貴金属イオンの還元・析出に寄与する生体物質等は、粒子生成場から判断して、ペリプラズム空間に存在すると考えられる。パラジウム回収量は、1.74×10-13 g/cellとなり、液相細胞濃度が1.0×1016 cells/m3であれば 1.74 kg/m3 になる。乾燥細胞のパラジウム含有率は60 wt%、出発溶液に対するパラジウム濃縮率は570倍に達する。5)
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S. algaeを利用しても、初濃度50~500 ppm の白金属イオン(パラジウム(II)、白金(IV)、ロジウム(III))や金(III)イオンが60分程度で還元され、金属ナノ粒子が析出する(図5)
従来の湿式回収技術と新技術の概略図を図6に示す。従来プロセスにおける物質フローと比較すると、還元細菌を利用するリサイクル方法は、浸出液のpH調整と電子供与体の添加が必要になるが、希薄溶液からの金属の分離・濃縮工程からナノ粒子調製工程に至る多段階工程をワンステップで達成できる統合プロセスとなる。これに加えて、一般的に微生物処理は非常に遅いという短所があるが、本バイオ技術は、貴金属イオンの還元・析出を室温、30分程度の回分操作で完了できる特長をもつ。
都市鉱山、例えばプリント基板には、貴金属に比べて300倍程度の高濃度でベースメタル(銅、ニッケル、亜鉛)が共存しているため、貴金属に対する選択性の有無が分離操作上の鍵となる。プリント基板やICチップの王水浸出液を対象にしても、浸出液のpH調整(pH 1~2)を行えば、還元細菌S. algaeは金(III)イオンを選択的に、迅速に還元する機能を発揮する(図7)9)。
使用済み自動車触媒の浸出液では、白金/パラジウム/ロジウム混合溶液を対象にバイオ還元・回収することになる。白金族金属混合溶液に還元細菌を適用すると、各金属の還元・回収は60分程度で完了するが、各金属イオンの還元・析出速度に顕著な違いが認められた。この還元速度差を活かして、バイオ還元・析出法によって白金族金属を相互分離できる可能性が拓けてきた。
貴金属を含む溶液を大量処理するために、槽型反応器を連続方式(原料溶液・還元細菌の供給、生成粒子・細菌懸濁液の排出)で操作し、バイオ還元・回収試験を行った。供給液パラジウム(II)濃度を500 ppm、平均滞留時間を20秒に大幅に減少させた場合でも、定常状態でのパラジウム回収率が95%以上に維持できた。この操作条件下でパラジウム回収速度が95 kg/(h?m3) 6) となり、高速・高効率回収が達成可能である。
シームレスカプセル製造技術(森下仁丹(株))を適用し、還元細菌を内包するカプセルを研究開発している。このバイオカプセルは、物理的に強固で、幅広いpH領域でも長期間安定であり、レアメタルが液相からカプセル内部に効率的に透過できるように皮膜構造(網目サイズ)を調整できる。本バイオカプセルを用いて、希薄溶液からパラジウム(II)の還元・回収に成功した(図8)12)。
還元細菌による貴金属の還元・回収法は、貴金属ナノ粒子の室温合成法としても捉えることもでき、高付加価値化リサイクル技術としての展開が期待できる。
化学的調製法では、生成ナノ粒子の凝集・沈殿を防ぐために、出発溶液に保護剤を添加する。バイオ調製法では、ペリプラズム空間に存在するナノ粒子を細胞破壊(アルカリ処理、超音波照射等)によって液相に取り出すだけで、分散・安定性の優れた金属ナノコロイドが得られる。これは、金属ナノ粒子とともに保護剤の機能を発揮する生体物質が液相に溶出したことを示唆しており、この点もバイオ調製法の特色である。
細菌細胞(=担体)の外膜近傍に貴金属ナノ粒子を高密度かつ高分散に合成できる点(図4,図5)は、貴金属担持触媒の調製法として大きな特長になる。
バイオ還元条件を制御して調製したパラジウム粒子は、市販品(パラジウム粉末、各種無機物担持)と比較しても、粒子径が小さく比表面積が大きいことから、液相化学反応(青色染料の脱色)における不均一系触媒13)として優れている(図9)。パラジウム担持細胞は、燃料電池用触媒10) としても良好な触媒活性を示す。
微生物が金属イオンを吸着する現象はバイオソープションと呼ばれ、細胞表層を構成するリン脂質やリポ多糖類(官能基としてカルボキシル基やリン酸基等)が金属イオンを捕集する。細胞表層がイオン吸着能を備えることで、細胞質への有害イオンの侵入が防御できる。
グラム陽性細菌S. algaeによるインジウム (III) 吸着実験の結果(8) を図10に示す。10分程度の回分操作で、液相からインジウムを細胞に効率よく分離・濃縮できる。特に、初期濃度0.1 mol/m3の希薄溶液を対象にした場合には、実験開始から3分後にインジウム回収率が100%となり、迅速・高効率のインジウム回収が可能である。
Shewanella 属細菌を利用するインジウムの分離濃縮・回収法(図11)には、i)従来技術に比べて環境負荷が小さく、エネルギーと物質の消費量を大幅に削減できる点、ii)希薄溶液(10~100 ppm)を対象に,回分操作では10分以内で、インジウムが微生物細胞内に分離・濃縮できる点、iii)インジウム含有細胞の乾燥(50℃,12h)によって簡便に濃縮物(インジウム含有率4%)として回収でき、その濃縮倍率は出発溶液(57 ppm)に対して約700倍にも達する点に特長がある。最近、使用済みLCDの塩酸浸出液を対象に本バイオ分離・濃縮法が適用できる可能性が示された。(14)
インジウム以外のレアメタルとして、ガリウム、レアアースを対象に、バイオソープションが有効な回収方法であることが著者の研究で最近明らかになった。
リーチングは,有用成分を固相から液相に溶出させる固液抽出(浸出)のことである。(15,16) 海外では、低品位硫化鉱からの銅の回収法としてバイオリーチングが商業化されている。
マンガン酸化物のバイオリーチング機構を図12に示す。還元細菌 S. algaeは固体状酸化物を直接的に還元できないため、S. algaeが生産する鉄(II)イオンを還元剤に用いて、酸化物からマンガンを浸出させる。このバイオリーチング法には、マンガンの浸出に伴って生成する鉄(III)イオンを、S. algaeの作用で鉄(II)イオンに還元・再生できる点に特長がある
廃棄アルカリ電池(32 wt% Mn、 22 wt% Zn、 3 wt% Fe)のバイオリーチング実験の結果(9))を図13に示す。還元細菌S。 algaeを接種するだけでマンガン浸出が著しく促進され、24 hの回分操作で浸出率が50%になる。浸出液に初濃度35 mol/m3の錯化剤(クエン酸塩)を添加することにより、24 h後のマンガン浸出率が80%以上にまで増大する。この場合、クエン酸塩による化学浸出(無菌対照)の寄与(マンガン浸出率20%)に比べて、S。 algaeによるバイオリーチングの寄与は4倍程度になる。この新規バイオリーチング法には、従来法に比べてマンガン浸出速度が10倍以上も向上する点に特長がある。